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2016年10月20日 (木)

楜澤能生著「農地を守るとはどういうことか」

 Nouchi
    楜澤能生著「農地を守るとはどういうことか」~家族農業と農地制度 その過去・現在・未来~(農山村文化協会)を読みましたので感想を書かせていただきます。
 著者は、早稲田大学の法学部長を務められ、法社会学、農業法の研究などをされている方です。農業政策についての本をいろいろ勉強しましたが、この本はお薦めです。

  私の住んでいる地域は、木津川が作り出した田園地帯です。しかし、徐々に耕作地は減少し、工場や住宅地に代わっていっています。広々とした芋畑だった場所も、工場用地に変わろうとしています。耕作放棄地も目立ちます。日本全体では、食糧自給率もしだいに下がってきているようです。また、TPPが農業に大きな打撃を与えるのではないかと懸念されています。いったいこのままで、日本の農業は大丈夫なのでしょうか?
 この本は、農地はなぜ守られなければいけないのか、農地をまもるとはどういうことなのかについて、明治以後の土地制度から現在までを概観し、基本的視点を与えてくれています。一読をお薦めしたいですが、ほとんどの方は興味がないと思います。
 そこで、興味のない人のために超要約(?)、勝手な解説(?)をしてみます。 
  【新自由主義からの要請】
 現在日本では、新自由主義的政策が進められており、産業競争力会議は、アベノミクスの成長戦略の一つとして、①農業協同組合(農協=JA)組織の見直し、②企業の参入促進、③農業委員会制度の見直し、などが柱となる抜本的農業改革を提案しています。
 資本力を持つ株式会社に農地を取得させ、輸入農産物との価格競争に耐えうる大規模農業経営体の育成を進めようというわけです。農協や農業委員会が発展の足かせとなっているため、この足かせをはずし、農地法は撤廃し、農地を誰でも自由に取得できるようにすべきだという方向です。既得権益打破。農業の規制緩和路線です。
 はたして、この方向は、正しいのでしょうか? 

  【農地法の要=耕作者主義】
 明治政府は、農地を自由な取引、自由な所有権の対象物としました。その結果、誕生したのが大地主制度でした。不在地主などが、自分の利益のために農地を他の目的のために転売すれば、農地によって成り立っていた農民の生活、文化は丸ごと破壊されてしまいます。農村の自然と社会に組み込まれた農地は、他の一般商品とは違った性格を持っているのです。全国で農地を守るための小作争議が起こされました。
  戦後の農地改革は歴史の教訓に学び、「耕作者主義」という考え方を取り入れました。「耕作者主義」とは、農業に常時従事する生活を営む地元農家を、農地に対する権利主体として保護する考え方です。つまり、農地は誰でも自由に買えるものではなく、一定の要件を満たす者だけにその取得が許されるということです。これにより、農地を基本とする地域社会、水資源、里山や山林の自然資源、生活・文化を保護するのです。
  資本は、より安い労働力を求め、より税金の安い国を求めて移動するものです。必要とあらばいつでも地域を捨てます。このような農外資本(株式会社)に農地所有権の取得を解禁するということは、農地を他の一般商品と同じく、所有した以上は、転用を含む売買自由の世界に置くということになります。

  【持続可能社会へ】
 現在人類は、三度目の大転換に迫られています。一度目の大転換とは、農耕と牧畜に基づく社会の成立です。二度目の大転換は、産業革命です。すなわち、化石燃料の大量投入による経済成長、大量消費の社会です。しかし、地球温暖化、環境の破壊など、地球そのものの限界に直面しています。
 現在、人類にに求められている大転換は、自然と調和した持続可能社会への転換です。資源の効率性を向上させ、生産と消費を自然循環プロセスに適合させる、新しい社会モデル、幸福モデルの追求です。

  【自然保護と農地】
  人間は、自然に働きかけ、自然を加工することによって生を営んでいます。自然保護とは、人間の生産と消費を自然の循環にどう適合させるかという課題です。
 好きな物を、好きな時に、好きなだけ食べるという消費のあり方は、大きな問題です。消費者を獲得し、利潤を最大化するために大量の化学肥料や農薬を投入する農業のあり方も問題です。生産と消費を自然と調和させる社会への変革が求められているのです。
  森林資源と水資源を保全し、農地を保全することは、国の自然環境の保護にとっても重要な問題です。
 農地にとって、本源的な意味をもつのは土壌です。長い時間をかけて醸成された、豊かな微生物の棲息空間としての土壌です。化学肥料ではなく堆肥を利用し、生態系を丸ごと保全する必要があるのです。この課題を成し遂げることができるのは、地域社会・文化の担い手として、その土地で生きる生活者、農地を含む自然との関係を共同で形成しつつ世代を越えてこれを継承する農業者をおいてほかにないのです。
 農地を農外資本に売り渡すことは、国土の保全に逆行することです。

  【ヨーロッパにおける取り組み】
  スイスでは、憲法に農業の持続的生産規定があります。政府は、①国民にたいする食料の安定供給、②生命基盤としての自然の維持、③地域定住の施策を講じる義務があることが規定されています。
 オーストリア、ドイツでは、農林地取引法により自由な農地取引を規制しています。
 欧州共同体内では、農林地の取引に関して、事前許可制の法規制がかけられているのが一般的です。

 農産物については、他の工業製品のようにグローバルな自由貿易に任せるのではなく、国土を保全し、食糧自給率を確保するための特別な政策が必要です。農業の保護。国土の保全です。TPP推進は、国土を荒廃させることにつながる危険があります。経済成長一辺倒ではなく、持続可能社会への転換。脱原発。「人類三度目の大転換」です。
    不十分なまとめで申し訳ないです。お薦めします。

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コメント

墓石さま こんばんは。
広いジャンルの本をお読みなのですね。

30年ほど前のまだ若かりし頃、
夫と「自給自足」の生活を夢見て、
後継者のいない農家の田んぼと畑を借りて
農業のマネ事をしたことがありました。
生活していくのは大変で、結局マネ事で終わりました…

農家の人は、田んぼの区画整理費用や大型農機具の購入、
化成肥料やら農薬、農協の支払いで大変そうでした。

今は、農業まで「新自由主義」ですか。
この国の行く末、小泉くんの農業政策…
地震と同じくらい心配です。

そうそう、村の文化祭で「人参」を出品して、
「優秀賞」をもらったんですよ。いい思い出です。
田んぼ、あぜ道、土手、水路、里山…
いつまでも残っていてほしい風景です。
お散歩写真を拝見して、慰められています。
いつもありがとうございます。

寒暖の差が激しいこの頃、どうぞご自愛くださいね。


投稿: ひかる | 2016年10月21日 (金) 21時42分

ひかるさん、こんばんは。
雑文を読んでいただきありがとうございます。

田舎の出身なもので、農業や漁業の行く末はすごく気になります。
農業や漁業は、なにしろ国の基礎ですからね。

しかし、驚きです。「自給自足」の生活を夢見て、農業を
志されたとは! ウーン。尊敬というか何というか・・・。
ひかるさんは、どんな多彩な人生を送られているんですか。
村の文化祭の思い出てすか。いいですね。

私は、ろくに世間も知らず、我が儘な人生でした。
後悔しても、もうすぐ終わりですが・・・。

最近、再びの独身生活中です。雑事が煩わしいです。
明日は何を食べようかと、悩みます。


 

 

投稿: 墓石 | 2016年10月21日 (金) 22時51分

墓石さん おはようございます。(*^-^*)

農業に向かない、弱い私が家の田畑を継、
苦労して来ましたから痛切な問題です。

自然保護はとっても大事な問題ですね。でも
私の場合は、農業で生活出来ないので都会へ移転しました。
少しの距離の移転ですが。農地法にもとづき田畑を少し売却してきまして、
運よく、国道にかかり、何とか生活できる糧を手に入れ
今があります。過疎地へ行けば実に悲惨な村々が存在しますね。皆高齢化され、細々と生活されています。農業でもし生活できたらこんなこともないのに、と辛いです。

農協の問題も大ですよ。その他、農業に関する施設にも
多額の金銭を取り上げられ、更に農業を苦しめます。
農地法も多くの規則で私達は本当に不自由な門を
こぐって来ました。機械化はいいですが、利益が出たら皆これに費やし、預金なんて出来ないのですよ。

私達が移転して更に農業の生活が出来にくくなっています。
それでも農地が多いと後継者はやらざるをえないのですよ。
今は殆どの農家は都会近郷だから若い世代はサラリーマン。
老夫婦は農業で同居です。これまた同居は旨くいけばいいですが、殆どは人間ですから、気づかい、苦労が多いですよ。

前から日本の農業をなんとか改革が必要と思っていました。
生活出来ない農業を守り、自然を保護にはどうすればいいのか。米が50年前より低く、野菜も同じではまず生活せよというのが無理ですよね。少しでも高くなれば、消費者は非難しますよね。また農地の区画が狭すぎですから、これも問題。自然保護が大事ですから、かりに企業が買収しても細かい規制を設ける必要がありますね。また農協の改革も大です。

投稿: 輝子 | 2016年10月22日 (土) 08時55分

 輝子さん、おはようございます。

 輝子さんは、農家の出身なので、まさに戦後の農業政策の
矛盾の真っ只中を生きてこられたのですね。農業政策につい
ては、いろいろ複雑な気持ちや意見を持っておられることと
思います。
 
 戦後の農地改革により、日本の農業は小規模家族農業を基本
として出発しました。その後、農業では生活できない、若者が
農業から去っていくという状態が進んで、現在に至ったと思い
ます。
 農村はずっと保守勢力の地盤で、農政を進めてきたのは自民
党でした。農協もそれに協力してきました。家族農業を中心と
した日本の農業では、外国の農業には太刀打ちできない、規模
を拡大して効率のよい農業にしていこうという基本路線があった
と思います。それに反対する勢力もあり、政策は複雑に入り組ん
できたと思います。その矛盾を取り繕い、票を確保するために
様々な補助金制度も作られてきたように思います。

 結果として言えることは、それらの政策が根本的に失敗であっ
ということです。工業製品輸出のために、農産物関税が引き下げ
られてきたという面もあります。
農業は国家の基本です。農家が生活できなくなれば終わりです。
「食料の安全保障」の立場からも、食料の自給率を増やすことは、
国家の当然の役目だと思います。TPPなどの自由貿易の流れに
反対し、小規模家族経営を含めた農業の大規模な保護政策が必要
だと思います。保護関税も必要です。それに農産物の価格保障。
さらに所得保障かな。ミサイル防衛の予算で可能だと思いますが、
どうでしょうね。

 農業問題、私の頭ではなかなか難しいです。輝子さんには、
輝子さんなりの考えがあると思います。

投稿: 墓石 | 2016年10月22日 (土) 12時03分

こんばんは。(*^-^*)

農地改革は重税を払い貧しい小作人には良き改革でしたね。
農業は超重労働ですから、国からの保証をして頂きたいものです。国も食料確保は最も重大なはずですから。それが無くてはいづれ滅ぶのでは?

農協の人員がまた多すぎるのですよ。無駄な事をしています。
小規模農業でしょ。そして区画が小さい田んぼが殆ど。
大型機械を共同で買って、と理想を言っても、人は困った存在で、損徳を言い出すのですよ。だから結局、多額でも自分の機械は自分でって事になるのですよ。無駄な事です。

農地の小ささを何とかとは思っていました。実に難しい問題で私も解りません。過疎地の棚田等もどうしたものでしょう。

企業が農地を買い占めは危険でしょう。国が采配して、持ち分に従って、利益を分配の☚もあるでしょうか。
ミサイル防衛費で可能ですね。

投稿: 輝子 | 2016年10月22日 (土) 18時24分

輝子さん、こんばんは。
実際に体験されてきたご意見をどうもありがとうございます。

日本の農業予算は、ヨーロッパの1/3だそうです。
もっともっと国が力を入れてほしいものです。
フランスは、農地の買い取りを仲介する公的な機関があり、
農業の規模拡大に威力を発揮したそうです。
地元に根ざした農業法人を援助するとか、生産者組合のようなものを
発展させるとか、何か良い政策を進めてほしいものです。
具体的には、素人の私にはどうにもよく分からないです。
とにかく、農業が軽視されいるのは確かですね。

投稿: | 2016年10月22日 (土) 21時22分

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