« 二十四節気「白露」2016後半 | トップページ | 二十四節気「秋分」2016 »

2016年9月18日 (日)

鈴木大裕著「崩壊するアメリカの公教育」感想

  Houkai01 鈴木大裕著「崩壊するアメリカの公教育」~日本への警告~ (岩波書店)を読みましたので紹介させていただきます。著者はアメリカの教育に憬れ、16歳でアメリカ留学を果たし、その後スタンフォード大学で修士号を取得し、日本で中学校の英語教師も経験されたことのある教育学の研究者です。

 今、日本の教育はどこに向かって進んでいるのでしょうか?
 安倍政権の下で全国学力テストは、60億円の予算をかけて抽出調査から全数調査に代わりました。調査を受注したB社には大きな利益がもたらされました。テストの結果は、多くの自治体で学校ごとの得点が公表され、学校間の競争と評価につながっていきます。教育方法、教員の指導力が、得点により評価される状況になってきています。
 そもそも教育は、点数によりすべてが評価できるものなのでしょうか?
 大阪では、三年連続定員割れを起こした高校は廃校というような制度も行われています。学校間の競争により、人を集められなかった学校は廃校にする、需要が少なければ切り捨てる、こんな市場競争原理が教育に持ち込まれていいものなのでしょうか? 
 得点化された教育価値で競争が組織され、得点を上げられる教育方法や学校が評価され、それを進める特定の出版社、受験産業等が大きな利益を上げる、そんな事態が進行しているのではないのでしょうか?

  また、小学校では、5~6年生で外国語(英語)を正式教科にするほか、歌やゲームなどで英語に親しむ「外国語活動」の開始を3年生に早める学習指導要領の改訂が予定されています。
 明治維新後、日本ではドイツ語、英語、フランス語などの科学技術用語を、漢語に翻訳し日本語の中に取り入れ、多くの国民が日本語により高度な西欧の先進的知識を学ぶことに成功しました。しかし、高度な学問を学び記述することが、英語でしかできないという事態は、多くの国民への知識の普及という点で大きな障害になるのではないでしょうか?母国語で、高度な知識や文化を語れなくなった国に未来はあるのでしょうか?

  大学教育では、大学の格差付けが進んでいます。世界の大学ランキング100位以内を目指すスーパーグローバル大学(東大など16大学)、社会のグローバル化をけん引するグローバル化けん引型大学などの格付けです。格付けにより運営費交付金に差をつけ、多国籍企業で活躍できる人材作りをする大学を目指しているのではないでしょうか?
  文化系学部については、「組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組む」という方向で改革が進められています。経済効率を高めるための学問が重視され、経済効率の悪いものは切り捨てる、それは果たして正しい方向なのでしょうか?

  前置きが長くなりましたが、この本は、日本の教育が向かっている先には、「崩壊するアメリカの公教育」と同じ運命が待っていると警告しています。キーワードは、「競争原理導入」、「民営化」などによる「新自由主義的教育改革」です。
 新自由主義の下では、今まで公共が担っていたものが民営化されていきます。教育においては、教育目標は数値化・標準化され、単純化された目標に向かって競争原理が導入され、それにより、民営化された教育は、競争に勝つための商品となっていきます。公教育が巨大な市場と化すわけです。世界最大手の教育出版社、ピアソン・エデュケーションは、多くの学力調査を受注し、関連する事業も含めると、アマゾンに匹敵する収益を上げるまでに成長しています。最近では、OECDの「生徒学習到達度調査 PISA」 の運営にも参加しているといいます。

 新自由主義的教育改革が進められたアメリカでは、「市場型学校選択制」が進められました。特に貧困地帯で、学力の低迷を理由に公立学校が閉鎖され、チャータースクール(公設民営学校)などの選択肢が新設され、すべての学校が存廃を掛けて点数の取れる生徒を奪い合う一大教育市場が生まれました。学校選択制の名の下に公教育の序列化を進め、教育の機会均等を保障するはずの義務教育が、格差を拡大する社会システムへと変質してしまったのです。また、バウチャー制(税金で私立学校へ通えることを可能にする制度)は、税金が私学・教育産業へ流れる仕組みになりました。

 アメリカでは発展途上国からの「教員」輸入という驚くべき問題も起こっています。
教育目標が単純化され、得点化されれば、教育は効率よく得点を取るためのマニュアルと化していきます。教育の専門性は軽視され、教育はマニュアルに従って進められる単純化された労働へと変質していきます。教員免許の条件が緩和され、教師は「安い使い捨て労働者」へと変質し、安い労働力として、海外から教員を調達するということすら起こっているのです。

 レーガン政権の下で始まった「ゼロ・トレランス」政策も、教育格差拡大に大きな影響を与えたといいます。「ゼロ・トレランス」とは、「割れ窓」理論です。割れた窓を放置しておけば、さらなる無秩序が広がり、より深刻な犯罪へとエスカレートしていくというものです。些細な乱れの段階で取り締まろうというわけです。日本風に言えば、「心の乱れは服装の乱れから」です。
 しかし、「ゼロ・トレランス」は、正しい援助が行われない状態で、取り締まりが強調されれば、非行の定義が拡大され、犯罪・非行は増大します。教育現場では、停学処分、退学処分の増加となり、300万人もの生徒が処分されるという事態になっています。結果として、家庭に困難を抱える黒人やマイノリティーの貧困層が学校システムから排除され、社会的弱者の切り捨てへとつながっていると、著者は指摘しています。

 著者は、日本では大きな権威として受け入れられている、OECDの「学習到達度調査 PISA」についても、新自由主義的危険性を指摘しています。
 第10章「立ち上がったアメリカの人々」では、今後の方向性が示されています。
 不十分なまとめですが、長くなりますので、このへんで。
 この本、一読をお薦めします。  では。また。
      

|

« 二十四節気「白露」2016後半 | トップページ | 二十四節気「秋分」2016 »

コメント

墓石さん こんばんは。(*^-^*)

涼しくなりましたが、体調は如何ですか?
貧血との闘いは気持ちが悪い事と思います。
私も少々目まいがあったり、来週には網膜に注射
です。決して決して気持ちよくはありません。

弱者切り捨て。いつの世もでしょうか。
点数で人間を決めるのは如何なものか。。。
もっと大きな目で見つめ、弱者にもそれなりの
賜物を伸ばせるシステムになって欲しいです。
経済一点ばりでいいのでしょうかね?

我が、それこそ能力の足りない者には難しい問題
ですが、得点だけなく、等しくその人に合った
教育をなされてほしいです。経済格差も増加すれば、
それこそ少子化が進み、国の未来がないのでは?
そこのところ良き政策を願いたいものです。
よく解らないのにすみません。

投稿: 輝子 | 2016年9月23日 (金) 19時44分

輝子さん、こんばんは。
コメントをありがとうございます。
今の時代、何かとお金儲けが第一で、教育もお金儲けの対象ですね。
競争と自己責任。弱いものは踏みつけにされる。嫌な世の中に
なってきましたね。

 輝子さんは、勧修寺や宇治植物園に行かれたようですね。
 私は体調が良くないので、ここ二週間、カメラを持っていないです。
今年は、彼岸花は諦めていましたが、今日、久しぶりに、少しだけ
土手に様子を見に行ってきました。彼岸花は、まだ咲いていました。
少しだけ、写真に撮りました。ホッとしています。


 

投稿: 墓石 | 2016年9月23日 (金) 21時13分

墓石さま こんばんは。

教育にまで新自由主義が進出しているのですね。
ため息が出ます…

近所の子供たちは、小学校高学年になると塾通いです。
お弁当持って、帰りは10時ですって。
空をぼ~っと眺めて過ごす時間もない子供たちが
将来にどんな夢を持っているのか心配です。

いやな時代に突入していく気配ですが、人間が何を
失ったのだろうかと思わされます。

新自由主義にならい、新・秋の七草選びましたよ!
「しぶとく生き残るぞ順」です。
①ママコノシリヌグイ(ネーミングで1番)
②ヘクソカズラ(そのまんまで撃退できる)
③荒れ地の盗人萩(哀愁を感じるがたくましい)
④赤マンマ(敬老の日の赤飯)
⑤マルハルコウソウ(貧しいけどあでやか。貧困の子供たちの希望!)
⑥ツユクサ(秋の季語だそうで。良き伝統は残したい)
⑦ルツボ(この時代の出来事をしっかり記録する!)そして、番外ですが、
⑧おばな(お月見には欠かせない)⑨ナデシコ(大好きなので)の二つも外せません。

知らなかった問題、むずかしい本を解き明かしてくださってありがとうございました。おじゃましました。

投稿: ひかる | 2016年9月26日 (月) 22時14分

ひかるさん、こんばんは。
コメントありがとうございます。

 ここ二週間ばかり、貧血症状と微熱が続いて、体調が良くなかったです。
無理をして写真に出かけましたが、直ぐにひきこもり生活逆もどりです。

ひかる選、新秋の七草、最高傑作ですね。
「しぶとく生き残るぞ順」とは、いいですね。
ちょっと元気が出てきました。
嫌な世の中になってきていますが、もう少ししぶとく
生きてみます。
最近ちょっと弱気になっていました。
ありがとうございました。

投稿: 墓石 | 2016年9月26日 (月) 22時39分

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)




トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/522242/64219714

この記事へのトラックバック一覧です: 鈴木大裕著「崩壊するアメリカの公教育」感想:

« 二十四節気「白露」2016後半 | トップページ | 二十四節気「秋分」2016 »