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2016年6月 3日 (金)

タックス・ヘイブンを考える

 先日、あるテレビ局の報道番組でパナマ文書のことが取り上げられていて、解説者の方が、『タックスへイブンを使って課税逃れをしている人がいる。法人税や所得税の税率を上げれば、ますます所得は海外に逃げていく。税は消費税を基本にしていくべきである。』と解説していました。あまりにも程度の悪い解説に怒りが湧いてきました。
 それで、自分なりに、タックスヘイブンの問題について整理することにしました。

  【資本主義と社会保障】
  資本主義とは、資本を投資して利潤を得る仕組みです。資本を持つ側には利潤が集まり、利潤が資本となり、さらに利潤が生まれます。そのまま放置すれば、経済格差が広がり社会は不安定化していきます。
 これを経済学者ピケティ氏流に言えば、r>g です。
   r=資本収益率、g=国民所得成長率です。
  つまり、国民所得が増加する以上の収益が、資本の側に集まるというわけです。
 ピケティ氏は、過去の税務資料などを調べ、理論としてではなく歴史的事実として、この法則にたどり着きました。

 この資本主義の弱点を緩和するため、社会保障という制度が生まれました。
 国家が、資本の側に集まった利潤を累進所得・法人課税により回収し、資本を持たない側に、社会保障として分配する制度です。富の再分配です。
 もし、この制度が機能しなくなれば、貧富の格差は拡大し、社会は荒廃していきます。
多くの人が貧困化すれば、購買力が失われ、経済恐慌やデフレ進行の危険も増していきます。

  【新自由主義とは】
  資本は利潤を求め世界を駆けめぐります。現代の資本主義は、「新自由主義」の時代に入りました。新自由主義とは、資本が、安い労働力と資源を求めて世界を駆けめぐる経済システムです。世界に展開する多国籍企業の利益が優先されるシステムです。
 新自由主義は、生まれながらの本質として、社会保障の削減、低賃金労働、企業活動の無制限の自由を主張します。
 新自由主義的な政策の特徴とは、「規制緩和」と「民営化」に代表されます。
 具体的には次のようなものです。(日本を例に)
 ★資本の側に蓄積した利潤を社会的弱者に分配する働きを持つ社会保障、それに振り向けられる利潤を削減します。
 ★労働に掛けられた規制を緩和し、派遣労働などの非正規労働を増やし、企業が安い労働力を使えるようにします。現在、非正規労働は4割を超えました。実質賃金もずっと下落中です。
 ★公共が担ってきた保育、教育、介護などを民営化し、安い労働力を利用して、この分野からも利益を得ます。
 ★法人税・所得税率を引き下げ、代わりに逆進性の高い消費税率を上げます。
 ★農業、漁業、医療、介護などすべての分野で規制を取り払い、競争原理を持ち込み、企業活動の自由を広げます。すべてが自己責任の世界です。
  ★TPPなどの多国籍企業の利益を誘導する協定を進めます。(ISD条項など)
  その結果、自国の農業や国民皆保険、食品の安全規制などを危険にさらします。
     ・・・・・・あげていくときりがないくらいです。
 要するに、新自由主義とは、多国籍企業の利益を擁護し、自国の国民の社会保障、労働環境などを破壊してまでも、グローバルに利潤の蓄積を行っていくものです。

 日本の上位100社は多国籍企業として世界展開しています。多国籍企業が、安い労働力を使い、自国の課税を逃れ、世界的に得た利潤を蓄え、それを再投資する舞台、それがタックスヘイブンです。
 タックスヘイブンは、グローバルな新自由主義経済が持つ本質的な問題なのです。新自由主義政策を進める各国政府が、タックスヘイブンへの取り組みに踏み出せない理由は、ここにあるわけです。

 【広がる格差】
  現在、新自由主義経済の下で、世界的に富の格差はどれくらい大きくなっているのでしょうか。
  貧困と不正を撲滅するために世界100ヶ国以上で展開するイギリスのNGO、オックスファムの報告書「An Economy for the 1% 」によれば、「62人が所有する富と、世界の所得の低い方の半数が所有する富とが、等しい」と言っています。
 国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)は、タックスヘイブンにある秘密情報を入手し、それを暴露しました。そのうちの一つが、今回のパナマ文書です。世界の富裕層の富は、課税を逃れ、タックスヘイブンなどに隠されていると思われます。

  【タックスヘイブンに隠された資産は?】
 では、タックスヘイブンに隠された資産はどれくらいあるのでしょうか? そもそもタックスヘイブンには資産が本当に隠されているものなのでしょうか?

◎ピケティ氏の著書『21世紀の資本』(p483~)に、そのことが書かれています。
 IMFなどの公式統計に表れた各国の対外資産を合計すると、貸す国があれば借りた国があるわけなので、各国の対外資産を合計すれば、当然0になるはずです。ところが、0にはならずに、全世界の合計はマイナス収支になっているといいます。日本、アメリカ、ヨーロッパなどの富裕国は合計すると、全世界の資産の4%分もマイナスになっているそうです。ピケティ氏は、「地球は火星に支配されているように見える」と述べています。この収支の合わない部分がタックスヘイブンに隠された資産です。
 ピケティ氏は、ガブリエル・ズックマンの研究を紹介し、タックスヘイブンに隠された資産は、全世界のGDPの10%以上にのぼる可能性があると述べています。
 世界のGDPを8000兆円とすると、これは800兆円になります。

 ◎タックス・ジャスティス・ネットワーク(TJN)は、イギリス下院で発足したNGOですが、この報告によると、タックスヘイブンに隠された世界の富は、2100兆円~3200兆円にのぼると推計しています。これは、世界のGDPの3分の1です。

 【日本では】
 先日5月24日に発表された日銀の国際収支統計によると、「対外証券投資残高」は423兆円となっています。このうち、ケイマン諸島にあるタックスヘイブンだけでも74兆円の投資が行われているとのことです。有価証券報告書に登場するタックスヘイブン子会社だけでも、524社にのぼるということです。匿名会社やペーパーカンパニーも入れると、かなりの数になると思われます。
 先日の国会でも、ユニクロの柳井氏による、慈善信託(チャリタブル・トラスト)という手法での課税逃れが指摘されていました。
  過去にはオリンパス事件もありました。アマゾン社やアップル社の日本法人が、日本へ税金を払っていない問題などは、以前から指摘されています。

 政府税制調査会の志賀櫻氏は、「アメリカの内国歳入庁(IRS)は、2001年に2900億ドルの課税逃れが発生したと議会に報告していたが、日本では推計さえしていない。驚くべきことだ。」と述べています。日本政府の対応は、もっと非難されるべきです。

 非正規労働の増加、消費増税、国家戦略特区、TPP、医療の混合診療解禁・株式会社化などの政策に反対することも、タックスヘイブンを利用した多国籍企業の課税逃れを追求することも、根っこは一つ、「新自由主義の暴走!」を止めることです。「新自由主義」という視点を抜きに、現代の政治や経済を正しく捉えることはできませんね。

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コメント

墓石さん おはようございます。(*^-^*)

全く人は貪欲で悪賢い者が多いですね。
そんな隠れた資産を持って死ぬのかしら。
貧しい人が多いのに、呆れかえります!

頭脳の冴えた者程悪いように私は思いますね。

本当は富を万遍なく分けたら、全民は豊かかも。

アー嫌な世の中です。

投稿: 輝子 | 2016年6月 6日 (月) 10時08分

輝子さん、おはようございます。

金のある人ほど金を欲しがる、人間は不思議ですね。
どれぐらいのお金があると、幸福が買えるんでしょうね。
お金が支配する世界は難しすぎます。
格差がもう少し縮まらないと・・・。

梅雨入りしましたね。
雨の写真を撮りに行きたいですが、何となく調子が出ないです。

投稿: 墓石 | 2016年6月 6日 (月) 12時36分

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