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2015年8月13日 (木)

古谷経衡著「ネット右翼の終わり」感想

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  古谷経衡著「ネット右翼の終わり」(晶文社)を読みましたので、お薦めというわけではないですが紹介してみます。興味のある方向けです。
 古谷氏は、「チャンネル桜」でパーソナリティーを務めたり、保守系論壇誌WiLL に意見を発表するなど、保守(右翼)的立場をとっている方です。自衛隊の海上戦力を増強し、4万トン級正規空母保有を提言したり、外交的には右翼タカ派です。
 この本は、右翼の立場に立つ人が、ネット右翼や在特会、ヘイトスピーチ、ネット右翼と右翼(保守)との関係などについて述べた本です。

 著者は、ネット右翼と保守(右翼)とは、違った出自を持っていると解説します。
 【保守(右翼)論壇の成立】
  保守論壇は、産経新聞と正論(雑誌)を両輪とした「正論路線」と、それを取り巻くフジサンケイグループを骨格として成立した。さらに、「産経・正論」路線を進めるフジサンケイグループ総帥、鹿内信隆の影響により花を開いたものである。
 しかし、産経の部数や正論(雑誌)の部数は限られており、実質的に保守論壇は、フジテレビにより庇護された温室空間であった。この温室の中で、言論はいびつなガラパゴス的発展を遂げていった。曾野綾子氏がアパルトヘイトを肯定する発言を平然と繰り返すのも、温室育ちの証左である。
 「憲法9条改正」「自衛隊の増強」「靖国神社公式参拝の推進」「反東京裁判史観」などの価値を共有する自民党内タカ派、「清和会」と連携しながら、右翼論壇は力をつけていった。宗教右派などが結集する「日本会議」は、その重要な補助組織となった。
 
 著者はネット右翼を次のような層の人々であると定義します。
 【ネット右翼の三必須、七原則】
 必須①嫌韓・嫌中の感情が旺盛
 必須②在日コリアンに強いネガティブな感情を有する
 必須③大手マスメディアに対し、反日的であるとの嫌悪感をもっている
     ④十五年戦争の肯定と東京裁判史観の否定
   ⑤靖国公式参拝のを支持
   ⑥憲法9条の改正などを含む、安全保障タカ派の価値観
   ⑦民主党に強い敵愾心を持ち、安倍政権を支持

 ネット右翼成立を著者は次のように分析します。
 【ネット右翼の始まり】
  ネット右翼の始まりは2002年。W杯日韓共同開催での韓国のラフプレーや数々の疑惑、その疑惑を報道しない大手マスメディアへの激烈な不満が、「2ちゃんねる」などの巨大掲示板上で爆発した。嫌韓、メディア不信、在日批判をともなってネットに流入した人々が、ネット右翼の源流である。(著者は、これを前期ネット右翼と呼んでいる)
 前期ネット右翼の段階では、保守(右翼)とはほとんど接点がなかった。

  【保守(右翼)との結合による後期ネット右翼の成立】
  前期ネット右翼は、保守(右翼)と結合することにより後期ネット右翼へと成長する。両者の結合に大きな役割を果たしたのが、小林よしのりの『戦争論』である。漫画という取っつきやすいメディアを通じて、産経新聞と正論周辺に自閉的に存在していた「ヤルタ・ポツダム体制打破」という価値観を一般化させ、また、小林氏は、自虐史観に基づかない新しい教科書を作る運動に参加し、これを広めることにも貢献した。
 さらに、前期ネット右翼と保守(右翼)論壇を結びつける決定的役割を果たしたのが、CS放送の「日本文化チャンネル桜」である。チャンネル桜によるYouTube、ニコニコ動画への投稿を通して、今まで右翼論壇に自閉していた保守思想が、前期ネット右翼の中に流れ込み、後期ネット右翼は成立する。
 後期ネット右翼は、その出自から持っていた劣悪で粗悪な「陰謀論」「トンデモ論」「嘘」のたぐいを保持したまま、保守思想の中に安住の地をみつけた。
 一方、自民党清和会、産経新聞、正論の保守側からすれば、ネット右翼こそが重要な顧客となった。こうして、両者は構造的に癒着関係に陥っていったのである。

 【保守(右翼)とネット右翼の融合】
 保守(右翼)は、思想的にはネット右翼の上流に位置し、ネット右翼はその受け手であり、下流に位置していた。しかし、保守(右翼)は、重要顧客となったネット右翼の持っていた劣悪で粗悪な「陰謀論」「トンデモ論」「嘘」のたぐいを批判せず、容認してしまった。ネット右翼の持っていた劣悪で粗悪なリテラシーが、上流に位置していたはずの保守(右翼)への逆流が始まり、両者の溶解(融合)が進んだ。
 例えば、自衛隊の幹部であった田母上氏は、上流である保守(右翼)に属していたにもかかわらず、ネット右翼の劣悪で粗悪な書き込みを取り上げ、ISの犠牲となった後藤健二氏を「在日」呼ばわりしたりしている。沖縄県知事の翁長氏の娘婿は中国人だというデマを容認したりする事態も生まれている。
  ネット右翼(狭義)は、保守(右翼)思想に寄生しながら、その思想を十分咀嚼することなく、独自に活動をする層のことである。
 今、真の保守(右翼)思想の確立こそが求められる。真の保守(右翼)思想に立つ人は、在特会などの「行動する右翼」のヘイトスピーチ、劣悪で粗悪なネット右翼(狭義)と訣別すべきである。・・・・・

  以上、「真正保守はネット右翼と訣別すべし」という著者の主張を要約してみました。ちょっとまとめ過ぎて、失礼だったかもです。お許し下さい。
 真正保守にとっても、在特会やネット右翼は、もはや邪魔な存在になってきているようですね。保守とネット右翼の溶解現象というのも深刻です。安倍首相が、ネット右翼の用語を使って、「日教組!日教組!」と国会でヤジを飛ばしたこともありましたね。
  著者は、真正保守の立場から、劣悪で粗悪な「陰謀論」「トンデモ論」「嘘」のたぐいを批判していますが、十五年戦争を肯定する歴史修正主義の保守こそ、「嘘」の発生源ではないかと、私は思いますが・・・。どうなんでしょうね。

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