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2014年8月29日 (金)

松田美佐著「うわさとは何か」感想

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  松田美佐著「うわさとは何か」(中公新書)~ネットで変容する「最も古いメディア」~を読みましたので、紹介と感想を。著者の松田氏は、中央大学文学部教授、専攻はコミュニケーション・メディア論です。
 この本でまず驚かされたのは、「うわさ」というのは立派に学問の対象になるということです。私などは、「うわさ」とは人の陰口を言ったり、事実かどうか分からないことをコソコソと広めること、といった程度の単純で否定的なイメージしかもっていなかったです。おばさんたちの方が、うわさ好きとも思っていました。すみません。間違っていました。簡単ですが、紹介させていただきます。

 著者は、「うわさ」とは、「人から人へとパーソナルな関係性を通じて広まる情報」という簡単な定義から議論を始めます。つまり「うわさ」を、人と人との関係性と情報という二つの側面から捉えていくわけです。
 第一章では、石油危機のトイレットペーパー買い占め騒動、関東大震災での朝鮮人来襲説、東日本大震災時の買いだめ騒動などの具体例が分析されます。
 情報という側面から捉えると、うわさによって伝えられた情報が真実であれば、「口コミ」と呼ばれ、誤りであれば、「デマ」、「流言」、「ゴシップ」、「風評」、「都市伝説」などと呼ばれ、うわさの多様な形態が述べられます。
 人と人の関係性という点から、豊川信用金庫取り付け騒ぎが分析されます。この事件は、うわさの伝達経路が明らかにされた数少ない事件ですが、このうわさの経路をたどることにより、「うわさを信じ安い人がパニックになって預金を引き下ろしに走った」という捉え方を著者は否定します。うわさとは、ごく一部のだまされやすい人が広めるものではなく、うわさに係わった人は冷静にうわさに接し、念のためにとか、嘘かも知れないがとりあえず、といった形でうわさを伝えたのです。うわさを理解するためには、うわさに対する一方的、否定的見方を改めることが必要だと述べています。
 第二章では、今まで心理学や社会学など様々の領域から「うわさ」について研究が行われてきましたが、その中から3つの古典的研究が紹介されます。
 まず、アメリカの心理学者オルポートとポストマンによる『デマの心理学』。この理論は、目撃情報は人から人へと伝達する内に細部が抜け落ちる「平均化」、一部分が誇張される「強調」、伝達する人々の先入観に逢うように変化する「同化」、という3つの変容を受けることを明らかにしたものです。つまり、うわさとは、情報の崩壊過程として捉えたわけです。
 次は、アメリカの社会学者のタモツ・シブタニの『流言と社会』。シブタニは、うわさとは、「曖昧な状況に巻き込まれた人々が、自分たちの知恵を寄せ集め、その状況についての有意味な解釈を行おうとするコミュニケーション」と定義しました。つまり、うわさは、情報の生成過程として捉える理論です。
 三つ目は、日本の社会学者の清水幾太郎の『流言蜚語』。清水は、2.26事件の言論統制を分析し、言論統制により禁じられた世論が流言蜚語として流出すると述べ、当時の社会のあり方を批判しました。
 著者は、これらの古典の限界を2つ指摘しています。一つは、都市伝説などの平常時のうわさが捉えられないこと。二つめは、うわさを伝える媒体・メディア役割が考察されていないことです。
 第三章では、口裂け女や人面犬ブーム、学校の怪談など、平常時の「うわさ」である都市伝説について分析が行われます。
 第四章では、人間関係におけるうわさの意味や働きなどが述べられます。うわさとは、既存の人と人の関係を伝わってゆくものであるがゆえに、人間関係を作る上で重要な役割を果たしていること。ゴシップは楽しい話題として、また集団規範を確認したりする上で、コミュニティにとって必要なものであることなどが論じられます。
 第五章は、うわさとメディアとの関係です。
 第六章は、ネット社会のうわさ~2010年代の光景です。
 この中で、東日本大震災での「風評被害」について、次のように述べています。
・・・風評被害はうわさから生じているわけでも、「不確かで誤った情報」から生じているわけでもない。・・・必要な情報が手に入らない場合だけでなく、政府などの公的機関が情報を隠しているのではないかという不信感、不安感の中で、様々の情報に基づいて個人が採用する「合理的な行動」が引き起こす予期せぬ結果が、風評被害である・・・
  政府関係者が放射能を予測するスピーディの情報を公開しなかった理由を「パニックが起きるのを恐れたため」とすることについても、著者は、これは「パニック神話」であると批判的に紹介しています。

 数日前、福島県が18歳未満の30万人の甲状腺検査を終えた結果を公表しました。子供の甲状腺ガンが100人ほど見つかったが、放射能の影響は確認できなかった、とする内容です。子供の甲状腺ガンは、通常は100万人あたり1人です。通常の300倍を超える患者が発生しているにもかかわらず、放射能の影響は確認できないと言っています。マスコミの扱いも極めて小さいです。チェルノブイリの経験から、放射線の影響による甲状腺ガンは、初期でも転移することが知られています。福島の子供は大丈夫なのでしょうか。2.26事件の時代のような「流言蜚語」が飛び交う時代がやって来ているのでしょうか。

 ここだけの話~、この本、内容をまとめるのにかなり苦戦しました。著者の論旨がイマイチくみ取りにくいです。しかし、「風評被害」というものを考える上で参考になりました。「うわさ」学の入門書です。     お薦めします。

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コメント

墓石さん、

今回はうわさがテーマですね。
第3章の口裂け女や人面犬ブームの分析
面白そうで読んでみたいです。
わたしも子供の時、友達や弟妹と
そんな話しをして、うわさの拡散に参加しました(^^)。
それにしても、福島県の18歳未満の甲状腺発生率
高いですね。

投稿: kazumi | 2014年8月31日 (日) 07時34分

kazumi、コメントありがとうございます。

「うわさ」というのも、よく考えるとむずかしいですね。
関東大震災の時、朝鮮人に対する不当な虐殺事件が発生しました。
新聞などのメディアが大きな役割を果たしたという研究もあります。
今、日本ではヘイトスピーチの問題が起こり、国連機関から勧告を
受ける事態になっています。メディアやインターネットなどが
どのように機能して、そういう事態が生まれているのか、
つっこんだ研究を待ちたいです。
福島県の甲状腺癌の問題は、引き続き注目ですね。

投稿: 墓石 | 2014年8月31日 (日) 10時07分

こんにちは 墓石さん

墓石さんの「うわさ」に関する説明はひじょーにわかりやすかったです。お疲れ様でした。たかがうわさ、されどうわさですね。考えさせられました。

福島の甲状腺がん、大変な事態ですよね。私思うに日本人って「熱しやすく冷めやすい」「マスコミや政府を信用し過ぎる&頼りすぎる」ちょっと危なくて軽い民族性を持っているのかなと思ってしまいます。

投稿: J | 2014年9月 1日 (月) 14時54分

jさん、コメントありがとうございます。

日本人の危なくて軽い民族性ですか。ウーン、Jさん深いですね。
関東大震災の時の朝鮮人虐殺事件。その背後にあった差別意識。
今の時代のヘイトスピーチ。原発事故に対する態度。
Jさんの言われるように、深い問題かも知れませんね。

投稿: 墓石 | 2014年9月 1日 (月) 17時50分

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