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2014年7月 5日 (土)

塩谷喜雄著「原発事故報告書」の真実とウソ 感想

Genpatu 塩谷喜雄著「原発事故報告書」(文春新書)を読みましたので、書評というような大げさなものではありませんが、紹介と感想を書かせていただきます。
 塩谷喜雄氏は、日本経済新聞の論説委員だった方で、本書で、4つの事故報告書を比較し、検証してくれています。

 最近のマスコミ報道では、しだいに反原発・脱原発的報道は少なくなり、「原発再稼働しなければ電気料金が値上がりする」、「貿易赤字の原因は、燃料輸入費増加である」、「経済成長をとるのか反原発をとるのか」といった印象の報道が増えているように思います。その結果、「経済か反原発か」を悩む人が増えていると思います。
 例えば、貿易赤字の原因について考えてみます。2013年の財務省貿易統計によると、火力発電の主力であるLNGの輸入量は、2010年に比べ25%増加しました。円は、1ドル80円から100円に、20円も円安になりしました。これは、円建てでは25%の輸入価格の上昇をもたらします。原発が停止し輸入量が増加したのと同じ影響です。また、LNGなどの燃料価格は、1.5倍に上昇しています。これは、輸入量増加分の2倍の影響があります。つまり、燃料輸入費増加の第一の原因は、円安と燃料価格の上昇なのです。まして、貿易赤字の最大原因を原発が動いていないことだと思わせるのは、一種の印象操作と言えます。

  前置きが長くなりましたが、今こそ原発について、私たちは一部マスコミの印象操作に流されず、冷静に考える必要があると思います。この本は、原発事故に対して出された4つの報告書(国会事故調、政府事故調、民間事故調、東電事故調)を比較検討して、冷静な評価をしてくれているように思います。
 著者は、原発事故報告を評価する視点として、次の6つを示しています。
  ①地震は事故原因でなかったのか?  (第2章)
  ②どれほどの津波に襲われたのか?   (第3章)
    ③津波がすべての原因なのか?       (第4章)
    ④炉心溶融は防げなかったのか?    (第5章)
    ⑤英断か?無用な介入か?官邸の対応  (第6章)
    ⑥事故調が調べなかった原発のリスク (第7章)
  第8章では、アカデミズムとジャーナリズムの罪について述べています。

 報告書に対する著者の評価の要旨をまとめてみます。(失礼ですが超簡単に。)
  【国会事故調】
 この報告書は、他の3つの報告書が「地震による破壊」がなかったという前提に立っているのに対し、地震の揺れを可能な限り解析し、津波の前の地震そのものので、原子炉がかなり損傷した可能性に迫っており、「津波主因説」を厳しく批判している点で、優れた報告となっている。
 しかし、必ずしも根拠のはっきりしない理由で、首相と官邸批判に走り、東電の責任回避に手を貸した結果となってしまっている。
 【政府事故調】
  政府事故調は、綿密な調査活動で事故の経緯を詳細に追い、同程度の地震・津波を受けながらも、何とか冷温停止している福島第二と比較検討し、福島第一における地震・津波後の事故対応に基本的欠陥があったことを浮き彫りにしている。この点で、優れた報告である。全電源喪失時のマニュアルが、全くものの役に立たなかったことなども明らかにしている。
 しかし、地震による無傷を主張し、津波主因説をとりながらも、津波についての検証どころか、地震学的な科学的確認作業すらしていない。この点は、論評に値しない。
 【民間事故調】
 事故の原因に科学的に迫るというより、現場の人間ドラマや首相官邸の動きに事故責任の矛先が向いており、東電の事業者責任には触れず、「政府が悪い」の大合唱はいささか異様である。「事故は官邸で誰かがボタンを押し間違えて発生したわけではない」。
 【東電事故調】
 合理的に責任を逃れる論理を、ひたすら追い求めた結果出来上がった胸の悪くなる文書である。十数万人に理不尽な避難生活を強いている事象を無視して、自社の原発プラントが壊れた事だけが「事故」だと語るこの報告書からは、地域独占の無残な品性が見て取れる。

 著者は、自身の反省も含め、メディアの責任についても言及しています。
 「『豆腐の上のおから原発』群が、大手を振ってまかり通ってきたのは、アカデミズムとジャーナリズムの貧困、あるいは衰弱の結果である。安全神話を繰り返し流し続けたメディアの存在無しに、原子力大国は存在し得なかっただろう。」
   「事故の核心部分である炉心溶融をめぐって、これだけ怪しい事態が続いているのに、メディアは一体何を報じたのか。ベントや海水注入で、安直な官邸批判を繰り返した新聞が、iPS細胞の心臓移植で、そろって大誤報をしたのは偶然だろうか」と。

 現時点で、原発事故の原因究明は、まだまだ十分に行われているとは言えません。東京電力の責任が十分に明らかになっているとは言えません。原発再稼働は急ぐべきではないと思います。著者の言葉に耳を傾ける必要がありそうです。
 「『なぜ』を問わないと、真実は隠蔽され、利権はたちまち復権する。原発の再稼働無しに、日本の復興・再生があり得ないかのような俗論が、自民党の政権復帰と共に、世を覆いはじめている。・・・・」(後書きより)。
                        では。また。

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コメント

いつもながら、興味深い本の内容を分かりやすくまとめてくださって、ありがとうございます。私も事故当時から、どうして東電の責任があきらかにされないのか憤りを感じていました。

政府事故調では、「同程度の地震・津波を受けながらも、何とか冷温停止している福島第二と比較検討し、福島第一における地震・津波後の事故対応に基本的欠陥があったことを浮き彫りにしている」とありますが、どんな欠陥があったのかもっと知りたいと思いました。

投稿: kazumi | 2014年7月 6日 (日) 05時16分

墓石さん、ご存知と思いますが、ジャカビ日本で承認されましたね!嬉しいので皆に言いまわっています。

投稿: kazumi | 2014年7月 6日 (日) 05時30分

kazumiさん、コメント有り難うございます。
私は、事故報告書を読んでいないので、本当のところは分からないです。
しかし、原因究明が十分なされないまま、東電の責任が問われないまま、
原発安全神話作りに手を貸した、芸能人や文化人、言論人の反省もないまま、
原発再稼働が進められていることに危機感を持ちます。

情報有り難うございます。新薬承認されましたか。知りませんでした。
有り難うございます。早速調べてみます。

投稿: 墓石 | 2014年7月 6日 (日) 10時20分

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