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2014年6月 4日 (水)

水野和夫著「資本主義の終焉と歴史の危機」

Mizuno   水野和夫著「資本主義の終焉と歴史の危機」(集英社新書)を読みました。お薦めの感想を書かせていただきます。
  水野和夫氏は、三菱UFJを経て、内閣官房審議官。現在は日本大学の教授です。

 書店の店頭で何気なくこの本を手に取り、面白そうな内容なので購入しました。マルクス経済学者が書いたものであると勝手に思っていたのですが、モルガン・スタンレー証券のチーフエコノミストという経歴を見てびっくりです。近代経済学の道を歩んでこられた方が、このような結論に到達したとは・・・。
 では、著者の主張を超要約的に説明してみます。

 資本主義とは、資本を投下し利潤を得るというシステムです。これは、経済成長を最も効率的に進めるシシステムであり、絶えざる資本の自己増殖過程です。
 資本は、利潤を上げるため、安い労働力と資源、市場を求め世界を駆けめぐります。資本主義はフロンティア(周辺)を開拓することで資本(中心)を増殖させてきたのです。しかし、南米もアジアもアフリカも開拓されつくして、もはや地球上にフロンティアは残されていない状態が近づいてきています。フロンティアが無くなることにより、資本は利潤を上げることができず、利潤率はしだいに低下してきました。利潤率が2%を切ると、投資して利潤を回収することが不可能になります。
 日本やアメリカ、ユーロ圏では、10年国債利回りは超低金利、政策金利はおおむねゼロです。金利は、ほぼ資本の利潤率を示しています。金利がゼロということは、資本を投下して利潤を得るという資本主義の基本が機能していないことになります。資本主義のシステムは、もはや限界に達しているのです。

 アメリカは、資本の利潤率の低下を逃れるため、物づくりから、金融に経済をシフトさせ、「電子・金融空間」を創出しました。銀行業務と証券業務の兼務を認める金融サービス近代化法を成立させ、商業銀行は子会社を通じて無限の投資をすることが可能になりました。「電子・金融空間」では、実物経済をはるかに凌駕する100兆ドルもの資金が世界を飛び回ったのです。
 しかし、金融は、物づくりと違い、新たに価値を生み出すことは出来ません。富の再配分をするに過ぎません。つまり、金融取引から生まれる利潤は、他人の富を合法的に奪っているに過ぎないのです。バブルが次々と作り出され、一部の資本が利益を上げ、バブル崩壊のツケとして、莫大な公的資金が投入されるのです。つまり、大多数の者から富が奪われ、1%の者に富が集中していく格差社会が進んでいるのです。

 BRICsなど新興国が成長を続ける現在、資本が、先進国と呼ばれる国々で、高騰する資源と高い人件費を使って、利潤を上げることはもはや不可能です。無理やり利潤を追求すれば、低賃金、低福祉を自国民に押しつけるしか方法はありません。「圧倒的多数の中間層が没落する形で現れる」のです。民主主義の担い手である中間層の没落は、民主主義の死を意味します。資本主義は、常に周辺(フロンティア)を必要とします。無理矢理利潤を追求しようとすれば、今や中間層が「周辺」となり、没落していくことになるのです。日本では、アベノミクスで、残業代ゼロ法案が提案され、すでに非正規労働は4割に達しようとしています。
 BRICsなど新興国の成長も過去の成長とは違ったものになります。新興国が、先進国並みの豊かさを目指せば、原油などのエネルギーの需要が飛躍的に拡大し、エネルギー価格は高騰します。先進国の中間層も購買力を失っていきます。新興国の輸出依存の成長モデルは、やがて行き詰まってしまいます。それでもなお成長しようとすれば、自国民の貧富を拡大させる以外にありません。今まで資本主義は、人口の2割に当たる先進国が8割の途上国を「周辺」として発展してきましたが、これからは、すべての国で格差社会が進行していくことになるのです。
 著者は断言しています。今こそ、利潤を追求する「成長型モデル」ではなく、「脱成長型モデル」が必要であり、ゼロ金利が続く日本こそが、その先頭を行くべきであると・・。

  水野氏が描いた資本主義の発展と終焉の理論、ドラマを見るように面白かったです。
 日本では、企業の利潤のみを追い求めるアベノミクスが吹き荒れています。日本の企業のブラック化。低賃金。長時間労働。4割に近づく非正規労働。解雇自由化法案である「限定正社員制度」。さらに、集団的自衛権の行使。TTP。成長の幻を追い続ける人々。
 この本が、アベノミクスの矛盾を浮き彫りにする力になることを期待します。この本、お薦めします。

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コメント

墓石さんの要約、興味深く読ませて頂きました。資本主義には常に安価な労働力と資源の供給源、また市場としてのフロンティアが必要という分析は当にその通りだと思います。私も時間があれば、この本を読んでみたいと思いました。

投稿: kazumi | 2014年6月 5日 (木) 11時55分

kazumiさん、コメントありがとうございます。

この本、お薦めしますよ。新書で740円と安くて、面白いです。
近代経済学の学者が、ここまで言うのかという感じです。

投稿: 墓石 | 2014年6月 5日 (木) 14時24分

墓石さん こんばんは。(*^_^*)

経済学なんてまるっきり解らない素人の私ですが、
こういった感想を書いて下さって、何となく解る
気もします。
もう早、資本主義の終焉なんでしょうね。
いつも思うのは低金利が何故続くのか?と不審
でした。理由があるのですね。

中間層の没落!悲しいじゃないですか。
確かにアベノミクスは一部の富裕層を肥やす、
とは思っていました。戦争へと向かう空気を
阻止したいものです!

投稿: 輝子 | 2014年6月 5日 (木) 19時37分

墓石さん、こんばんは。 

 本は読んでいないので、もし勘違いならすみません。

 資本主義には、常に「安価な労働力」と資源の供給源、また市場としてのフロンティアが必要というのは極論で、資本主義の一面に過ぎないと思います。

 何だか無理矢理、資本主義の終焉に結論付けるための、強引な理論のようにも感じられます。

 資本主義は、もっと多面的なダイナミズムがあります。ですからイギリス産業革命以来、共産主義を凌駕してきたと思います。確かにご指摘のネガティブな面も存在しますが、人間の持つ叡智、創造性、革新性によるイノベーションによって、資本主義の終焉を回避する、楽天的未来も充分可能であると思いたいです。
 

投稿: yasubee | 2014年6月 5日 (木) 21時19分

輝子さん、コメントありがとうございます。

戦争のできる体制が進んでいるので気がかりです。
集団自衛権だの九条の改正だの騒がしくなってきています。
平和がいいですね。
まじめに働けば、それなりの生活ができる、そんな社会がいいです。
大金は要らないです。

投稿: 墓石 | 2014年6月 5日 (木) 21時20分

yasubeeさん、コメントありがとうございます。

資本主義が終焉すると言われてからほぼ150年が経ちました。
資本論が書かれてから150年が経ったわけですが、資本主義は
生き延びていますね。
これから先、どうなるんでしょうか。おそらく誰も予想できないと思います。
終焉を回避しながら、発展を続けていくのかも知れませんね。
yasubeeさんの言われる楽天的未来も正しいのかも知れませんね。

投稿: 墓石 | 2014年6月 5日 (木) 21時37分

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