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2013年7月27日 (土)

川村元気著「世界から猫が消えたなら」

 川村元気著「世界から猫が消えたなら」を読みました。著者は、1979年生まれの映画プロデューサーで、『電車男』『告白』『悪人』『モテキ』『おおかみこどもの雨と雪』などを製作された方だそうです。
 書店で、「本屋大賞ノミネート」という宣伝文句に釣られて買ってしまいました。
あり得ない設定の、喜劇マンガを読むような軽いタッチの作品です。しかし、考えさせられる内容でした。感想を書かせていただきます。

Nekogaz  この小説、余命宣告をうけた男の最後の一週間の不思議な話です。
 ではまず、あらすじを。
  ある月曜日。母親が残した一匹の愛猫と暮らす郵便配達員の主人公は、脳腫瘍により、余命が残りわずかだと医者に宣告されます。その日、アロハ姿の陽気な悪魔が登場し、明日死ぬ予定になっていることが告げられますが、この世からひとつだけものを消せば、そのかわりに1日だけ命が延びるという取引をもちかけられ、同意してしまいます。そして、まず電話がこの世から消されます。
 火曜日。電話が消された日。電話が消える前、一回だけ電話を使用することを許された主人公は、昔の恋人に電話を掛け、出会います。電話の消えたことにより、電話に振り回されながらも、電話と共にあった二人の恋が回想されます。
 水曜日。映画が消されます。消される前に、一本だけ映画を見ることを許された主人公は、古い友人からDVDを借り、昔の恋人が働く映画館で映画を見ようとしますが、パッケージの中身は空っぽ。そして、何も写されない白いスクリーンの中に、主人公は自分自身の人生を見ます。「ET」という映画が好きだった自分。父や母との想い出。死んだ猫のことなど。「ほとんどの大切なことは、失われた後に気づくものよ」という母の言葉と共に・・・・。
 木曜日。世界から時計が消されます。死んだ母が残した猫が突然しゃべり始め、その猫との対話を通じて、今は絶縁状態にある父や自分に愛情を注いでくれた母との生活をふり返ります。そして、ものは無意味に存在しているのではないこと、また、人間を人間たらしめている時間や色、温度、孤独、そして愛の存在などに気づいていきます。
 金曜日。悪魔から猫を消すことを告げられます。姿を消した猫を捜しているうち、昔の恋人に出会い、彼女が預かっていた母からの手紙を読み、母が死の最後まで自分を愛してくれていたこと、その愛によって自分は生かされてきたこと、それは自分にとってかけがえのない大切なものであることに気づきます。
 土曜日。物を消しながら生きながらえるよりも、自分の人生にとって、もっと大切なものがあることに気づいた主人公は、猫を消すことを断ります。そして、自分の葬儀の準備を済ませ、長らく絶縁状態にある父親へ長い手紙を書きます。
 日曜日。安息の日。愛猫と共に、父への手紙を携え、郵便配達人として最後の仕事を果たすため、自転車に乗り父の住む隣町へと走り出します。

 あらすじを書くのは大変難しいです。書いているうち、しだいに作者の考えがおぼろげに見えてきたり、作品の限界を感じたりもします。
 では、作者のメッセージを確認してみましょう。
 作者は、悪魔に次のように語らせます。
 「あなたは最後の最後で、大切な人や、かけがえのないものに気付き、この世界で生きていることの素晴らしさを知った。自分の生きている世界を一周まわってみて、あらためて見る世界は例え退屈な日常であったとしても、十二分に美しいということに気付いたんです。・・・」
  無意味に生きながらえるより、自分にとってかけがいのないものの存在に気づくこと、それこそが、その人の人生の価値を決めるということです。つまり、作者は、人生至上の価値は「愛」であり、その存在に気づくことこそが大切なことでである、と言っているようです。
 また、作者は、今の自分を、そして世界のすべてをあるがままに受け入れよ、とも言っています。主人公に、次のように語らせます。
 「無数の失敗や後悔、叶えられなかった夢、会いたかった人、食べたかったものや行きたかった場所。とにかくそんなものを無数に抱えながら僕は死んでいく。でもそれでいいんだ。僕はいまの自分でいいと思える。ここではないどこか、ではなく、ここにいてよかったといまは思える。」
 世界にあるすべてのものの価値やあるがままの自分を受け入れ、そのことにより自らも救われていく。すべてのもの、すべての命に意味がある。そんな愛の世界を作者は描き出しましました。「人は愛するために生まれてきた。・・・」。 そんな作者のメッセージが聞こえてきそうです。
 この小説は、喜劇マンガのようなタッチの作品です。優れた喜劇は、笑いの後に大切な笑えない何かを残してくれるものです。その意味で、この作品は優れた喜劇といえそうな気がします。小説のことには詳しくない私ですが、お薦めします。
 ただし、人の死をこのように軽いタッチで描くことに反発をいだく人には、お薦めできません。          では。また。

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