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2013年6月29日 (土)

濱田武士著「漁業と震災」

 濱田武士著「漁業と震災」(みすず書房)を読みました。濱田武士氏は、東京海洋大准教授、専門は漁業経済学、水産政策審議会特別委員も務めた方です。漁業の専門家である著者は、漁業の現場をふまえ、震災からの復興と漁業の再生について論じています。

Shinsai  今、「新自由主義」についての理解が無ければ、政治を語ることはできません。震災についても同じです。経済的利益のみを優先する勢力は、震災という壊滅的被害を利用して、一気に新自由主義的政策を進めようとしています。「惨事便乗型資本主義」と言います。すべての日本人が、震災からの復旧・復興を心から願っています。しかし、この善意も、「新自由主義」への理解がなければ、知らないうちにいつのまにか悪意へと変質させられてしまいます。
 では、漁業分野における「新自由主義」的政策とは、どのようなものでしょうか? 「新自由主義」的政策を進める経団連や経済同友会は、震災復興と今後の漁業の在り方について、次のように提言をしています。

「新しい東北、新しい日本創世のため・・・各漁業組合を再編し、漁業権は証券化し、過去の実績に応じて証券交付する・・・。
   ①漁業権を開放して企業参入を自由にし、操業や漁場利用の規制を取り払う。
   ②TAC制度(総漁獲可能量の設定)をもうけて水揚量を半分程度にする。
   ③実績に応じ漁獲を割当、これを証券化し取引可能な制度(ITQ制度)を導入。
 ④漁協組織は障害になるため見直す・・・・。」

  つまり、漁業権を有価証券にして販売し、あがる利益は、投資家や、大規模経営体に配当しようというわけです。零細漁民は市場から退場させられ、また、残った漁民も魚を捕る単純労働者のような存在となってしまい、自然を守り地域や漁食文化の担い手ではなくなるわけです。
 こうした方向に沿って、「農地・漁港の集約化」をめざす「食糧基地構想」が浮上し、漁業権を民間会社に直接免許する「水産特区」も法制化されました。宮城県は行政主導で漁港整備の選択と集中をかかげ、中心的な漁港を優先的に復旧させ、漁業権を企業体にも許可する方向を進めています。そのため、リアス式海岸の入り江ごとに営まれてきた小さな漁港を中心とした漁業集落は、復旧から取り残され困難に直面しています。

 前置きが長くなりました。本書の内容です。
 第一章「太平洋北海区の水産業と被災地」では、被災地の漁業・漁村の歴史を振り返り、震災前の状況・問題点などが述べられます。
 第二章「被害と被災」では、明治、昭和の三陸地震と東日本大震災の被害が比較、概観されます。
 第三章「漁村と漁港」では、日本の漁村集落は、漁場から資源を獲得し自らの生計を立て、経済的利益を得ているだけの存在ではないこと。近世以来、漁場の保全と管理、漁業紛争の調停を積み上げ、コミュニティが形成され、「自然」が守られてきたこと等が明らかにされます。
  第四章「復興方針と関連予算」では、「創造的復興」論が、上から目線の現場不在の復興論であることが述べられます。
 第五章「食糧基地構想と水産復興特区」では、宮城県の「水産業特区構想」が批判されます。
 第六章「水産業の再開状況」。
 第七章「揺らぐ漁漁協同組合」。
 第八章「メディア災害の構造」では、現場を知らないメディアの一方的報道や「水産特区」のような惨事便乗型の改革論を「第二の人災」と指摘します。
 第九章「放射能の海洋汚染と常磐の漁業」。
 第十章「地域漁業のゆくえ」では、漁協の果たしてきた役割の重要性や今後の課題などが指摘されます。
 最終章で著者は、「漁港の集約化」や「水産復興特区構想」などは、社会関係を経済的利害のみで捉え、地域の自然や文化のあり方を考えていない、そして、経済的利益や効率性のみが追求され、漁業権などの制度が壊されるとき、共同体的人間関係が分断され、営々と築かれてきた自然と人間の関係が断ち切られ、木材の輸入自由化により山林が荒れたと同じように、国土や海は荒れていくだろう、と述べています。
 著者は、「自由と効率を掲げ、社会関係にあった人格を破壊し、格差社会を作り上げる新自由主義の罠に、これ以上はまってはならない。」「経済的思考だけにとらわれず、どういう国土を維持したいのか、どのように暮らし、魚を食べ、食文化を継承したいのかを、消費者であるわれわれ一人ひとりが考えることが求められている。」と訴えています。
 内容が多岐にわたっており、一部分しか紹介できませんが、この本、お薦めします。

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コメント

墓石さん おはようございます。(*^_^*)

昨夜投稿したのですが、何故かエラー。

何かの本で読みましたが、都会の生活豊かなで
格差の多い区域と、以前災害のあった山村で
貧しい区域の満足度のアンケート結果です。

都会よりその山村の方がずっと満足度が大きい
のですって。

ある国では格差を無くす動きが多く、そうすれば
不満度が極少ないとか。

経済成長が人間の満足にそぐわない訳ですよね。
人間て、欲に切りがないので、考える必要が
ありますね。

投稿: 輝子 | 2013年7月 2日 (火) 10時35分

輝子さん、こんばんわ。
コメントありがとうございます。

経済の効率や利益の話ばかりで、すべてが進められている社会です。
困ったことです。人のつながりは、経済的繋がりばかりではないはずですが。

輝子さんは信仰をお持ちなので、心は静かだと思います。
私などは、欲望の塊のような人間ですので・・・。
毎日、イライラしながら暮らしています。

投稿: 墓石 | 2013年7月 2日 (火) 19時45分

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