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2013年3月 4日 (月)

【尊厳死】⑤正岡子規の場合

 尊厳死について考えてきましたが、今回が最終回です。正岡子規の場合を考えます。
 正岡子規は、三十歳になる前に脊椎カリエスになり、三十五歳で死ぬまでほとんど病床にありました。明治35年5月5日から死の二日前の9月17日まで、新聞『日本』に127回にわたって、随筆を連載しています。有名な「病牀六尺」です。脊椎カリエスは、相当に痛みを伴う病気のようで、モルヒネも効かなくなり、それでもなお、書き続けらた「病牀六尺」は、彼の壮絶な最期の記録です。

 六月二日に書かれている言葉は、よく知られた言葉です。
    〇余は今まで禅宗のいわゆる悟りということを誤解して居た。悟りということはいかなる場合にも平気で死ぬることかと思って居たのは間違いで、悟りということはいかなる場合にも平気で生きて居ることであった。
 正岡子規は、仏教で言う「悟り」の境地について、このような理解に到達したわけです。しかし、子規は悟ったわけではありません。六月二日の後半部分には、次のように書いてあります。
   ○ちなみに問う。狗子に仏性有りや。曰、苦。 
また問う。祖師西来の意はいかん。曰、苦。
また問う。………………………… 曰、苦。 
 「狗子に仏性有りや」「祖師西来の意はいかん」などは、禅問答に出てくる問題(公案)です。あらゆる公案に、子規は「苦」と答えています。
 六月二十日には、つぎのような言葉もあります。
      ・・・・誰かこの苦を助けてくれるものはあるまいか。・・・・
 六月二十三日、
     ・・・(あまりの苦痛に)・・ただになぐさめる事の出来ないのみならず、あきらめて居てもなほあきらめがつかぬやうな気がする。

 正岡子規は、痛みと闘いながら、時には死を願望し、時には諦めようとし、痛みが和らげば生きられることを喜び、振り子のように生と死の間を振れ続けます。やがて振り子は止まり、壮絶な彼の生は終わりを告げます。実に、彼は人間らしく、最期まで苦しみながら、時には楽しみながら生きたのです。私は、人の死とはこのようなものだと思います。

 私の両親はすでに亡くなりました。もちろん「悟り」などということとは無縁です。母は時々、「もうすぐお父さんのところに行く。」といっていました。死んだら夫に会えると思い、自らの死を慰めていたのだと思います。認知症が進み、時々覚醒します。その時は、たいてい子供時代の話を始めます。私が聞いたこともない母の子供時代の友達と、私の知らない母の故郷の川で、魚釣りをして楽しかった想い出などを語っていました。母の心は、決して二度と帰ることのできない故郷での子供時代をさまよっているようでした。これで自らの心の平安を保っていたのだと思います。
 人は、人それぞれに、その人なりのやり方で死を迎えます。私の場合は、やはり「もっともっと生きたかった。」です。もっと生きたいような「生」を生き、そして死ぬ、素晴らしいことだと思います。しかし実際は、苦しいときの神頼みで、神にすがるような心境になっている時もあるかも知れません。早く楽に死にたいと思っているかも知れません。先に死んでいった人たちと、きっと会えるかも知れないと、ありもしない妄想で心を慰めているかも知れません。過去の楽しかった想い出の世界をさまよっているかも知れません。振り子のように揺れ動きながら。
 素晴らしい死に方などどこにもありません。悲しみのない死などありません。人間らしい死とはそのようなものです。それでいいのだと思います。

 尊厳死について考えてきましたが、まとまらないまま終了します。

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コメント

墓石さん。こんにちは。
死ぬ事を考えないように
死ぬことは忘れて生活していますが、
時々考えておくのも良いですね。

私の両親も他界しています。
亡くなった頃の事を思い出すと
今も淋しく落ち込みます。
大正生まれの人なので
私などより、もっと壮絶な人生だったのではなかったかと思います。
仕事も生活もバイタリティで体当たりしていくような生き方でした。
私も人生を全うしたいと思いますが
死ぬ時はやはりポックリ逝きたいと思ってしまいます。。。

投稿: alice | 2013年3月 5日 (火) 16時07分

alice さん、こんにちは。
コメントありがとうございます。

ポックリですか。私の父は、心筋梗塞でポックリでした。
この病気は、ポックリではないです。ジワジワ進行ですね。
これも考えようによっては、いいですね。
ゆっくり覚悟が決められます。
まあ、なるようにしかならないです。

投稿: 墓石 | 2013年3月 5日 (火) 20時00分

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