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2012年9月 3日 (月)

デヴィッド・ハーヴェイ著「新自由主義」

  デヴィッド・ハーヴェイ著「新自由主義」(作品社)~その歴史展開と現在~ を読みましたので、紹介させていただきます。
 デヴィッド・ハーヴェイは、専攻:経済地理学 ニューヨーク市立大学名誉教授です。

 日本では、小泉政権下で本格的な新自由主義の経済政策が進められました。特殊法人や郵政の民営化など公共部門の民営化が容赦なく推し進められ、また、企業の競争力を強化するための規制緩和、労働者派遣法の改正、三位一体地方分権改革、社会保障費の削減など、小泉・竹中構造改革とも呼ばれる政策が進められました。その結果、大企業には「史上最長の好景気」がもたらされ、逆に国民の間には、「ワーキングプア」、「格差社会」という言葉が普及し、既存社会の安定は崩れ、地域社会や家族の崩壊がもたらされました。ここで初めて、日本の国民の前に新自由主義の実態がさらけだされたのです。さらに、新しい政権が誕生しましたが、菅政権、野田政権はみごとに変節し、法人税減税、消費税増税、社会保障の一体改革、TPP参加など、新自由主義推進政策を進めました。
 日本の政治に大きな影響力を持ち始めた「大阪維新の会」も、規制緩和、道州制制といった新自由主義的政策を掲げています。道州制は、日本財界のかねてからの主張です。国民総背番号制、日本の医療制度を根本から破壊する混合診療の解禁なども維新八策に盛り込まれました。「維新の会」のさらなる大問題は、憲法の改正、労働組合に対する露骨な攻撃、民主主義への憎悪といった新保守主義と結びついているということです。
 さて、前置きがずいぶんと長くなりましたが、私が言いたいのは、新自由主義への理解無しには、今の政治は語れないということです。新自由主義とは何か? なぜ、新自由主義は新保守主義と結びつくのか?  デヴィッド・ハーヴェイの「新自由主義」は、多くの視点を与えてくれます。
 ハーヴェイは、「新自由主義」を、イギリスやアメリカなどの先進資本主義国が福祉国家維持のための高コストにより利潤率を低下させ、国際競争力を失ったため採用した国家体制、と単純には捉えていません。「新自由主義」は、韓国やシンガポールなどの開発途上国、ロシアや中国などの旧社会主義諸国も含め、それぞれの国の事情を引きずりながら、世界同時的に展開されている体制、資本主義の一時代として捉えています。 第4章地理的不均等発展では、メキシコ、アルゼンチン、韓国、スウェーデンで、どのように新自由主義が受け入れられていったのかが分析されています。第5章「中国的特色のある」新自由主義では、中国がどのようにして新自由主義国家となっていくかの分析があります。中国という国を理解するのにも役立つと思います。
 また、ハーヴェイは、「新自由主義は、国家の干渉から自由な市場を守るもの」という市場原理主義的側面からのみの理解を否定し、「新自由主義」は、グローバル企業の競争力を回復するために、それを妨害する政治制度を破壊し、強力な国家介入をおこなうものであることを指摘しています。中国やロシアなどの「権威主義的国家」が新自由主義を受け入れていった理由も理解できます。
 第3章新自由主義国家では、新自由主義国家は、世界市場における競争主体となったため、ナショナリズムを動員するものであることが指摘されています。また、新保守主義との結びつきの危険性も指摘されています。

 ナショナリズムの高揚、新保守主義の台頭は、日本でも重要なテーマになっています。「尖閣を守れ!」、「憲法を改正して自分の国を守れる国に!」、「決める政治を!」、「国家の改変を!」など、日本人の欲求不満は極点に達しています。新自由主義と新保守主義の結合体である大阪維新の会は、この不満を吸収して巨大怪物となり成長しています。「新自由主義」に対する理解無しでは、この怪物の餌食になることは間違いないです。
 今こそ冷静に!!  この本お薦めします。 ハーヴェイは日本のことにはほとんど触れてていませんが、編者の渡辺治氏が、「日本の新自由主義」という付録を付けてくれています。この方が勉強になるかも。  では。また。

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ありがとうございます

投稿: ゆ | 2013年2月27日 (水) 23時12分

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